保育園で出会った不思議な子の話

2024年11月
  • 病院とは違う専門性、保育園看護師という役割

    保育園

    子どもたちの元気な声が響き渡る保育園。その日常の中に、保育士とは異なる専門的な視点から、子どもたちの健康と安全を静かに、しかし力強く支える存在がいる。それが「保育園看護師」だ。白衣の天使という病院でのイメージとは異なり、保育園看護師は、子どもたちと共に笑い、遊び、生活をしながら、その医学的知識と観察眼を駆使して、集団生活における健康管理と安全確保の砦となる、極めて重要な役割を担っている。奈良の保育園事情に詳しい方はこの仕事の最大の特徴は、その専門性が「治療」ではなく「予防」に置かれている点にある。病院の看護師が、すでに発症した病気や怪我の処置を主たる業務とするのに対し、保育園看護師の使命は、子どもたちが病気や怪我をすることなく、健やかに日々を過ごせる環境を、プロアクティブに創り出すことにある。その業務は、まず、毎朝の「視診」から始まる。登園してくる子ども一人ひとりの顔色、表情、機嫌、皮膚の状態などを注意深く観察し、保護者からの情報と合わせて、普段と変わりがないかを確認する。この僅かな時間での的確なアセスメントが、感染症の早期発見や、体調不良の悪化を防ぐ第一歩となる。感染症対策は、保育園看護師の腕の見せ所だ。インフルエンザやプール熱といった季節性の感染症の流行期には、その予防法や家庭で注意すべき点を記した「保健だより」を作成・配布し、保護者の知識向上を図る。園内では、正しい手洗いや消毒の方法を、子どもたちだけでなく、全職員に徹底させる。そして、万が一、感染症が発生した場合には、その拡大を最小限に食い止めるための対応策を主導する。また、保育園看護師の専門性は、特に「〇歳児保育」において、絶大な信頼を寄せられる。まだ言葉で不調を訴えることのできない乳児の、わずかな様子の変化から、体調の異変を察知する能力。SIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクを低減するための、安全な睡眠環境の整備と、睡眠中の呼吸チェックの徹底。一人ひとりの発達に応じたミルクの調乳や離乳食の管理。これら全てにおいて、看護師としての医学的知識が、かけがえのない命を守るための羅針盤となるため、多くの園で〇歳児クラスの担当を任されることが多い。保育園看護師は、単に体調の悪い子に対応するだけの存在ではない。保育士が「育ち」のプロフェッショナルであるならば、看護師は「健康」のプロフェッショナルとして、園全体の保健衛生レベルを向上させ、子どもたちが毎日を安全に、そして健康に過ごすための基盤を築く、不可欠な専門職なのである。その存在は、医療と保育の架け橋となり、子どもたちの笑顔あふれる日常を、静かに、しかし確かに支えているのだ。

  • 医療保育の未来を拓くために、現状の課題と展望

    保育園

    病気の子どもたちを支える医療保育士の専門性は、近年、小児医療の現場で高く評価され、その需要は着実に高まっています。しかし、その重要性とは裏腹に、医療保育の分野は未だ多くの構造的な課題を抱えています。最も根深い問題は、医療保育士が国家資格として法的に位置づけられておらず、その業務が診療報酬の対象として認められていない点です。これにより、医療保育士の配置は完全に各医療機関の裁量と経営判断に委ねられてしまっています。結果として、大学病院やこども病院など、比較的規模の大きな施設での配置は進んでいるものの、多くの中小病院やクリニックでは、その必要性を認識しつつも人件費の面から配置に踏み切れないのが現状です。これは、子どもたちがどこに住んでいるか、どの病院に入院したかによって、受けられる心のケアに大きな格差が生じていることを意味し、子どもの権利保障の観点からも看過できない問題です。また、医療保育士自身のキャリアパスや労働環境も十分に整備されているとは言えません。専門性の高さにもかかわらず、その価値が給与などの処遇に適切に反映されにくく、キャリアアップの道筋も不明確なため、志を持ってこの分野に進んでも、将来への不安から離職してしまうケースも少なくありません。こうした課題を解決し、医療保育の未来を拓くためには、社会全体の理解を深めるとともに、制度的な改革が急務です。具体的には、まず医療保育士の業務を診療報酬の対象とし、病院が専門家として雇用しやすい環境を整えることが第一歩となります。さらに、将来的には「公認心理師」のように、医療分野で活動する保育士の国家資格化や、それに準ずる公的な認定制度を創設することも視野に入れるべきでしょう。これにより、専門性の質が担保され、医療保育士の社会的地位も向上します。幸いなことに、近年では「子ども中心の医療」という理念が広まり、医療現場における子どもの心理社会的支援の重要性への認識は確実に高まっています。この追い風を捉え、医療保育の専門職団体や関連学会が連携し、国や社会に対してその必要性を力強く訴え続けていくことが求められます。病気の子どもであっても、遊び、学び、発達する権利があるという認識が広まり、医療保育士の専門性への注目度は高まっています。すべての子どもが、病気の時でも自分らしく、笑顔で過ごせる社会の実現に向け、医療保育のさらなる発展に大きな期待が寄せられています。