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家庭に代わる家、児童養護施設で働くことの覚悟と使命
様々な事情により、実の親と暮らすことができない子どもたちが生活する場所、それが児童養護施設である。虐待、ネグレクト、親の病気や死。子どもたちは、その小さな体に、大人でさえ耐え難いほどの深い傷や悲しみを抱えながら、施設の扉を叩く。児童養護施設で働くということは、単に「仕事をする」ということではない。それは、こうした子どもたちの過去を静かに受け止め、傷ついた心を癒し、未来を切り拓く力を育むための「家」となり、「家族」となる覚悟を決めることに他ならない。この仕事の根幹は、子どもたちの失われた「当たり前の日常」を取り戻すことから始まる。決まった時間に温かい食事が用意され、清潔な衣服と安心して眠れる寝床がある。学校の宿題を見てくれる大人がいて、些細な出来事を笑い合える仲間がいる。病気になれば心配し、誕生日には皆で祝う。こうした日々の暮らしの営みを、一日一日、丁寧に、根気強く積み重ねていくこと。それこそが、子どもたちの心に「自分は大切にされている存在なのだ」という自己肯定感の土台を築き、人を信じる力を取り戻させていくための、最も重要なプロセスである。職員の役割は、親の「代替」である。朝、子どもたちを起こし、学校へ送り出す。日中は、学校や関係機関との連絡調整、施設の清掃や食事の準備、そして山のような事務作業に追われる。夕方、子どもたちが帰ってくれば、宿題を見たり、進路の相談に乗ったり、時にはぶつかり合いながらも、一人の人間として真剣に向き合う。夜には、添い寝をして安心させ、子どもたちが寝静まった後も、夜勤としてその安全を見守り続ける。その生活は、まさに二十四時間体制。職員自身の生活の多くを捧げる、極めて献身性の高い仕事である。しかし、この仕事は単なる生活支援に留まらない。職員は、子どもが発するサインの裏にある、言葉にならない心の叫びを読み解く専門家でなければならない。突然暴れだす行動の裏にある不安、無気力な態度の裏にある絶望。トラウマに起因するこれらの困難な行動に対し、職員は感情的にならず、その背景を理解しようと努め、心理担当職員などの専門家と連携しながら、一人ひとりに合ったケアを提供していく。児童養護施設で働くことは、綺麗事では決して務まらない。裏切られること、傷つけられることも日常茶飯事だ。それでも、この仕事を選ぶ人々がいる。それは、一人の子どもの人生に深く関わり、その成長をすぐそばで見守ることができる、何物にも代えがたい喜びと使命感があるからだ。昨日まで心を閉ざしていた子が、初めて「先生」と呼んでくれた瞬間。誰も信じられなかった子が、自分の将来の夢を語ってくれた夜。施設で働くことは、子どもの命と未来を預かるという重責を背負い、その人生に光を灯すための伴走者となる、尊い使命なのである。
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社会の礎を築く誇り、保育という仕事の持つ深遠な価値
保育士という仕事の魅力は、日々の感動や、温かい人間関係といった、情緒的な側面に留まるものではない。その最も深遠な魅力は、自らの仕事が、社会の未来を根底から支えているという、計り知れないほどの「社会的意義」と、それに対する「誇り」を実感できる点にある。保育士は、ただ目の前の子どもを育んでいるだけではない。彼らは、これからの社会を創造する、次世代の担い手の「人間としての土台」を、その手で築いているのである。幼児期が、人間の脳の発達や人格形成において、決定的に重要な時期であることは、もはや言うまでもない。この時期に、子どもたちがどのような経験をし、どのような愛情を受けて育つかが、その後の人生における、他者への信頼感、自己肯定感、学びへの意欲、そして困難を乗り越える力といった、生きる力の全ての基礎を形作る。保育士の仕事とは、この人間形成の最も重要な設計段階に、専門家として関わることに他ならない。安全で安心できる環境の中で、子ども一人ひとりの個性を認め、その子が持つ無限の可能性を信じ、引き出す。友達との関わりの中で、自分の思い通りにならない経験や、葛藤を乗り越える力を育む。多様な文化や価値観に触れさせ、広い視野と、他者を思いやる心を養う。保育士の日々の地道な実践は、確実に、一人の人間の未来を、そして、その人間が構成員となる、社会の未来を、より良い方向へと形作っているのだ。また、保育士は、現代社会が直面する課題を解決するための、重要な社会的インフラとして機能している。保護者が安心して働き、自らのキャリアを追求できる社会は、質の高い保育が保障されて、初めて実現する。保育士の存在が、日本の経済活動や、男女共同参画社会の実現を、根底から支えているのである。さらに、地域社会における子育て支援の拠点として、保育園は重要な役割を担う。育児に孤立感を抱える家庭に寄り添い、専門的なアドバイスを提供することで、地域全体のセーフティネットを構築する。時には、虐待などの危機的な状況から、子どもの命と人権を守る、最後の砦となることもある。これは、社会の最も脆弱な部分を支えるという、極めて尊い使命である。保育士という仕事は、決して世間で注目を浴びるような、派手な仕事ではないかもしれない。日々の業務は、地道で、根気のいることの連続だ。しかし、その手の中には、確かに、一人の人間の人生の始まりと、社会の未来が託されている。この実感こそが、保育士に、何物にも代えがてない誇りと、困難な仕事に立ち向かうための、揺るぎない動機を与えてくれる。自らの仕事が、社会の礎を築いているという、静かだが、確かな自負。それこそが、保育士という職業の、究極の、そして最も深遠な魅力なのである。