子どもたちの元気な声が響き渡る保育園。その日常の中に、保育士とは異なる専門的な視点から、子どもたちの健康と安全を静かに、しかし力強く支える存在がいる。それが「保育園看護師」だ。白衣の天使という病院でのイメージとは異なり、保育園看護師は、子どもたちと共に笑い、遊び、生活をしながら、その医学的知識と観察眼を駆使して、集団生活における健康管理と安全確保の砦となる、極めて重要な役割を担っている。奈良の保育園事情に詳しい方はこの仕事の最大の特徴は、その専門性が「治療」ではなく「予防」に置かれている点にある。病院の看護師が、すでに発症した病気や怪我の処置を主たる業務とするのに対し、保育園看護師の使命は、子どもたちが病気や怪我をすることなく、健やかに日々を過ごせる環境を、プロアクティブに創り出すことにある。その業務は、まず、毎朝の「視診」から始まる。登園してくる子ども一人ひとりの顔色、表情、機嫌、皮膚の状態などを注意深く観察し、保護者からの情報と合わせて、普段と変わりがないかを確認する。この僅かな時間での的確なアセスメントが、感染症の早期発見や、体調不良の悪化を防ぐ第一歩となる。感染症対策は、保育園看護師の腕の見せ所だ。インフルエンザやプール熱といった季節性の感染症の流行期には、その予防法や家庭で注意すべき点を記した「保健だより」を作成・配布し、保護者の知識向上を図る。園内では、正しい手洗いや消毒の方法を、子どもたちだけでなく、全職員に徹底させる。そして、万が一、感染症が発生した場合には、その拡大を最小限に食い止めるための対応策を主導する。また、保育園看護師の専門性は、特に「〇歳児保育」において、絶大な信頼を寄せられる。まだ言葉で不調を訴えることのできない乳児の、わずかな様子の変化から、体調の異変を察知する能力。SIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクを低減するための、安全な睡眠環境の整備と、睡眠中の呼吸チェックの徹底。一人ひとりの発達に応じたミルクの調乳や離乳食の管理。これら全てにおいて、看護師としての医学的知識が、かけがえのない命を守るための羅針盤となるため、多くの園で〇歳児クラスの担当を任されることが多い。保育園看護師は、単に体調の悪い子に対応するだけの存在ではない。保育士が「育ち」のプロフェッショナルであるならば、看護師は「健康」のプロフェッショナルとして、園全体の保健衛生レベルを向上させ、子どもたちが毎日を安全に、そして健康に過ごすための基盤を築く、不可欠な専門職なのである。その存在は、医療と保育の架け橋となり、子どもたちの笑顔あふれる日常を、静かに、しかし確かに支えているのだ。