日本の保育の現場には、「保育士」と「保育教諭」という、似ているようでいて、その成り立ちや法的な位置づけが大きく異なる二つの専門職が存在する。この違いを理解することは、現代日本の抱える子育て支援の課題と、その未来の姿を読み解く上で不可欠な視点となる。両者の違いを解き明かすには、まずそれぞれの専門職が拠って立つ法律と管轄省庁の歴史を紐解く必要がある。まず、「保育士」は、厚生労働省が管轄する児童福祉法を根拠とする国家資格である。その主たる職場は「保育所(保育園)」であり、その設置目的は、保護者の就労などにより家庭での「保育に欠ける」乳幼児の健全な育成を保障することにある。保育士の専門性は、生命を守り、情緒の安定を図る「養護」と、心身の発達を促す「教育」が一体となった「保育」を実践することにあり、特に対象年齢が〇歳からと低いことから、生活習慣の自立や愛着形成といった、福祉的な側面が色濃いのが特徴だ。一方、保育士と対比される存在として、かつては「幼稚園教諭」がいた。こちらは文部科学省が管轄する学校教育法に基づき、小学校以降の教育課程への接続を念頭に置いた「学校」として位置づけられる「幼稚園」で働くための教員免許状である。その専門性は、明確に「教育」に置かれ、三歳以上の幼児を対象に、定められた教育要領に沿った指導を行うことが主たる役割となる。このように、日本の幼児教育・保育は、福祉を担う厚生労働省の「保育所」と、教育を担う文部科学省の「幼稚園」という、二つの異なる制度の下で発展してきた。この「二元化」の状態は、保護者の働き方の多様化や、子育て支援へのニーズの高まりの中で、様々な課題を生み出すことになる。そこで、この縦割りの制度を乗り越え、保護者のニーズに応じて柔軟なサービスを提供するために創設されたのが、「認定こども園」である。認定こども園は、保育所が持つ福祉的な機能と、幼稚園が持つ教育的な機能の両方を併せ持つ施設として、地域の子育て支援の拠点となることが期待されている。そして、この新しい施設で、保育と教育を一体的に提供するために生まれた、全く新しい専門職が「保育教諭」なのである。したがって、保育士と保育教諭の最も本質的な違いは、保育教諭が「保育士資格」と「幼稚園教諭免許状」の双方を保有していることにある。それは単に二つの資格を持っているということではない。福祉と教育という、これまで別々の道を歩んできた二つの専門性を一身に体現し、子どもの発達を連続的に捉え、質の高い保育と教育を統合して提供する、新しい時代の保育の担い手としての役割が与えられているのだ。保育教諭の存在は、日本の幼児教育・保育が、制度の壁を越えて新たなステージへ向かおうとしていることの象徴と言えるだろう。
二つの資格の物語、保育士と保育教諭を分ける歴史的背景と制度